2014年3月30日日曜日

猫サンクチュアリ年代記 1:猫サンクチュアリの始まり

「猫サンクチュアリ年代記」は、東京の小さな街にある地下鉄の駅と小学校の裏門あたりに住む猫たちの物語である。

私は2002年以来現在まで、休日に彼らに会い、食事を与えてきたが、この12年の間に多くの猫が死んだ。彼らの生と死は、とてもつつましいものだった。そのつつましさゆえに、私の胸は痛む。

私は彼らを忘れたくない。彼らが私に教えてくれた「生」と「死」の意味、私に与えてくれた無償の「愛情」の痕跡を、どこかに残しておきたいと思う。

私がこの街に引っ越してきたのは、1996年の年末だった。地下鉄の駅のすぐ近くに大きな自転車置き場があり、自転車置き場の入り口には、ベンチが数脚置かれた小さな広場がある。広場と道路の境にも自転車置き場の周囲にもツツジの潅木が並び、潅木の間には、桜や梅、沈丁花、クチナシ、山茶花、大きな樫の木などが植えられている。

週末や祝日の昼間、自転車置き場と地下鉄の官舎の間の遊歩道を通ると、小さな広場にあるベンチに座っている猫たちを見かけた。大きなきれいな三毛猫もいた。猫たちは心細げな人待ち顔だったが、何かを期待するのをあきらめているようにも見えた。

私は、彼らと親しくなりたい、飢えや寒さから、少なくとも飢えからは守ってあげたいと思う一方、これまでの経験から、自分にはできないと思っていた。一度始めたらやめることはできないし、また、猫にご飯を上げることに対してあからさまな嫌がらせをする人たちがいることを知っていた。生半可な同情は、かえってひっそりと生きる猫たちの邪魔になることもある。

何がきっかけだったのか、あるとき自転車置き場の中を通ると、小さな立て札があり、ここに住む猫たちはみんな避妊、虚勢済みだと書かれてあった。私はうれしかった。彼らを保護している人たちがいるのだ。そのときから私は、週末になると、チーズやカツブシ、ドライフードや猫用缶詰を持って、そこに行くようになった。

猫たちの住むこの美しい場所に、私の夫は「猫サンクチュアリ」と名づけてくれた。

猫サンクチュアリは、二つある。大きなのは自転車置き場とその周辺で、もうひとつは、そこから続く遊歩道の終わりころにある小学校の裏門あたりにある。